●●●ノルウェー福祉レポート・5●●●
《老人ホームの様子・生活編》
by Yoko(管理人)
(2001/9/20更新)
Åskollen Bo-og Servicesenter ⇔ Strømsø
Bo-og Servicesenter
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(ネットスケープをお使いの方はごめんなさい・・・)
福祉レポート3、4に引き続き老人ホームの様子をご紹介します。 最終回の今回は、入所されているお年寄りたちの生活ぶりを見てみましょう。 上の写真は以前よりご紹介している2か所の施設(オースコッレンとストロムソ)の個室の様子です。決して特別室ではありません。ここは高級な有料老人ホームでもありません。ごく一般の市民のための市営の老人ホームの一室です。 ![]() お部屋を見せてくださったお二人はとても友好的で、身にまとう洋服も着飾っていらしたので、一瞬、ここが施設の一室であることを忘れさせられました。カーテンも家具も小物も、インテリアのすべてがセンス良くまとめられています。壁にはたくさんの写真を飾り、ノルウェーの一般のお宅の一室と何ら変わらない雰囲気。ここなら「私も生活できそう」と素直に感じました。 オースコッレンでは建築図面を見せていただきました。その一部を例にご説明します。まず、ノルウェーの老人ホームの居室はすべて個室です。昔は、今の日本のように4人部屋もあったそうですが、後に改築しているそうです。絶対に個室の方がいいと力説されました! 一部屋の広さは、図面から約25u程度だとわかります。バスルーム(シャワーとトイレ)と入り口部分を除くと室内は約16uです。日本的に言うと10畳くらいの広さになります。 ![]() 「寝たきりの方はどれほどいらっしゃるのですか?」という私の質問に、オースコッレンの施設長ブリットさんは「半分くらいね。」と答えられ、びっくりしました。「ノルウェーでは寝たきりのお年寄りは少ない」という前知識があったからです。 そこで、表現が悪かったのかと思いよくよく伺ってみると、ブリットさんの言う「寝たきり」の定義は「介助なしで、ひとりでは起きられない人」のことだったのです。ですから、昼間は車椅子で共同の居間でおしゃべりをしたり、お庭に散歩にいったりして過ごしているそうです。日本でイメージされるような、「24時間ベットの上で過ごす」方は1人もいないとのことでした。 写真はストロムソの、リハビリテーションの様子です。 様々な専門職の職員がいて、熱心なケアをしていたのが印象的でした。 入所されている方々の日中の過ごし方をもう少し詳しく伺ってみました。「タバコはOK?お酒はOK?1人で外に出掛けるのは?買い物は?家に帰れる?好きなものを食べられる?家族と面会は出来る?」などなどのたくさんの質問を用意していた私ですが、答えはあまりに拍子抜け!すべてが「Ja!」(はい・OK)だったのです。門限もなければ個人の自由を束縛する規則は一切ありません。 ただし、それぞれの質問内容について細やかな気配りはありました。例えば、身体的に1人での外出が無理なら職員が付き添って外出する。買い物に出られない人のために、kiosk(キオスク・小さなお店)が、定期的に施設に売りに来る。自分でお金を管理できない人は施設長が代わりに管理をしていて、常にいくらかは自分で好きに使える。美容師も出張してくる(カット100クローネ。パーマ400クローネ)。多くの家族は仕事が終わった後の夕方か(注・ノルウェーは残業がほとんどなく、大半は4時で帰路につける)、土日に遊びにやって来る。家に帰りたくなったらいつでも帰れるし、日中の過ごし方はすべて自分で決める。新聞を読んだり、音楽を聴いたり、グループで手芸を楽しんだり、ダンス、ケーキ作り、散歩・・・・・。とにかく何でも自由です。しばしば面会に訪れるという家族のあり方も日本とは違っているようでした。 ![]() 上の写真は、施設で見つけたくつろぎの風景です。 伺ったお話の通り、車椅子でお庭を散歩していたり、テラスでお茶を楽しんだりしています。右上の写真は施設で飼っている小鳥たち。左下は玄関近くの飾り棚で、トロール人形と国旗がノルウェーを象徴しています。(小さくてわかりませんね) ![]() この写真はそれぞれの施設にたった1箇所ずつしかなかった共同の浴室です。 日本では考えられないほど狭く、はっきりいって使えなさそう! 聞いてみれば案の定、ほとんど使っていないそうです。なぜならノルウェー人は入浴の習慣があまりないからです。つまり、若い頃からシャワー浴で過ごしてきた彼らに、「お湯につかる快感」は必要ないわけです・・・・日本の介護サービスといえば、食事の次に思いつくのが入浴サービスで、これが施設の建築費でもサービスの人件費でもかなりの比重を占めている実情を考えるとノルウェーはなんて効率的な国民習慣なのでしょう! でも私はやっぱりお風呂が恋しい・・・・・ また、ついでに施設全体の設備的なことを言うと、日本の施設の方が立派です。例えば汚物のニオイを強力脱臭する装置や、全室に完備され寮母室で一括管理されるナースコールの類は、少なくとも今回見学した2施設には無いようでした。また、入所者の安全を守るため(閉じ込めるため??)の電気錠や監視モニターも皆無です。 ![]() 最後になりますが、無謀な私に親切にご案内をしてくださった施設長さんをご紹介しましょう。 写真左の真ん中の方がオースコッレンのブリット(Britt)さん。写真右の方がストロムソのカーリ(Kari)さんです。 私はお二人が感じていることをそれぞれに質問してみました。 私:「入所されている方々は、ここに満足されていると思いますか?」 ブリットさん:「ほとんどの方は満足していると思います。」 カーリさん:「ここは家で過ごすのと同じですから、80%くらいの方は満足していると思います。でも全員ではありません。本当はみんな家にいたいのです。」 私:「あなた方はご自分の仕事に満足していますか?」 ブリットさん:「ええ。でも、私たち職員は女性ばかりです。男性の部下がもっとほしいと思っているんですよ。」 カーリさん:「はい。とても楽しい仕事です。でもとてもきつい仕事でもあります。」 私:「現在の問題や、今後の展望について何かあれば教えてください。」 ブリットさん:「病気になる人がたくさんいることです。病気の人は病院に入ってからまた戻ってきます。それから建築的には廊下が狭すぎて見通しが悪く、ニオイがこもってしまうのが問題です。今後の展望はもっと時間がほしい。そうすればもっと皆さんと話ができるでしょう。ただ一緒にいるだけの時間がほしいのです。」 カーリさん:「昔は建築的な問題もあったけど、今は改善されました。今後の展望はすべてコミューネ(市)の法律に書かれている通りです。」 私:「bo-og servicesenteret(施設名称。直訳:住居とサービスセンター)とは何ですか?」 ブリットさん:「ここは家です。本人が何をしたいかを聞いて働く場所です。」 カーリさん:「病院と同じようですが、ここはお世話をするところです。」 一般に福祉先進国と言われている北欧、ノルウェーですが、彼らもいろいろな経験をしながら試行錯誤に発展してきたことがわかりました。そしてまだまだ発展途上で、新しい試みもスタートしているようです。例えばブリットさんが最後に、もうすぐドラメン市にオープンする(もうしていると思います)、ケア付アパート(omsorgsbolig)について説明してくださいました。ここは購入するのに自宅を売らなければならない程度のお金がかかるそうですが、健康なお年寄りたちの新しい住まいとして注目されているようでした。(当時は建設中でしたが、ドラメン川を望む高級マンションの構えでした。) 日本とノルウェーでは文化や風土といったその土壌は大きく違っていますが、「年を重ねても楽しく暮らしたい」という思いは一緒のはず。今回の施設見学で出会ったお年寄りたちの笑顔を思い出すたびに、何か、未来のために日本人の意識改革があってもいいのではないかなぁとマジメに考えてしまいます・・・・。 長々と最後まで読んでくださったあなたに、心より感謝いたします。 また、今回の見学にご協力くださったブリットさん、カーリさん、写真撮影に快く応じてくださった入所者の皆さまにも厚く御礼を申し上げたいところですが、日本語は通じないのでいつか機会があれば・・・・ Tusen takk for hjelpene deres ! |