frosk
社会福祉事情
Vol.1

・キャンパスに多い赤ちゃん、子供、お年寄り、犬


「赤ちゃん、子供、お年寄り、犬をひとくくりにするな!」という声が聞こえてきそうですね。すみません。
でも大学のキャンパスに本来いないものがあると目立ちます。それが、赤ちゃん、子供、お年寄り、犬だったのです。大学の敷地内に保育園があるので、子供はよく目に付きました。クラスメートにお母さんがいたのですが、彼女も自分の子供を大学の保育園に預けていました。見送りとお迎えが楽だったに違いありません。
あと赤ちゃんですが、若い学生でも既に子持ちが「あり」の社会なので、例えば、学食とかに乳母車持参で来ている学生を見かけました。近所の人がキャンパス内を乳母車で散歩している、ということも可能です。
保育園
お年寄りというと本当のお年寄りと学生にしては年をとっているという2つのケースが考えられます(私も後者のケースにあてはまりますが)。ノルウェーの大学では、学生の年齢の幅が広く、私は結構、救われました。最初に留学したヴォルダカレッジでは、学生寮の隣人を、大学の先生と勘違いしたことがあります(あんまりおじさんだったので...)。
オスロ大学の学生新聞でも「高齢学生」の特集を組んだことがあります。それによると、60歳以上の学生は、193人。うち、女性は120人。最高齢の学生は81歳。また50歳以上の学生は1000人を超え、40歳から50歳までの学生は2379人だそうです(2000年2月)。ちなみに人気のある専攻は人文系だそうです。この新聞でインタビューされていた71歳の女子学生は、文学部のパーティにも参加したとのこと。さすがに「飲むと眠くなる」とおっしゃってます。また、「年金生活なんてすごく退屈!」と学生生活に飛びこんだとか。いいですね、その意気!

最後の犬ですが、ノルウェーの犬は人間よりよほどしつけが良く、地下鉄でもトラムでも白眼視されません。犬だったら、絶対ノルウェーにいる方が幸せだと思います。どこにでも自由に入れて、人からも嫌がられないので。

こんな風に、多様性を認める大学っていいですよね。クラスメートは他のヨーロッパ諸国からの留学生が多かったのですが、彼女たちもノルウェーの大学の風景には驚いていました。だから、こうした現象は、ヨーロッパ全てに当てはまるものではなさそうです。

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・ドメスティックバイオレンスに向けた新しい動き


ドメスティックバイオレンス(DV)は、配偶者や恋人、元配偶者などが、妻や子供など身近な人に振るう暴力のことを意味し、日本でもここ2,3年の間に、新聞やニュースなどでも目にする機会が増えました。

ノルウェーでも、DVの問題は存在します。全国に50箇所弱のシェルター(暴力被害者の避難所)が点在し、電話相談に応じたり、一時的な宿泊所の設備が整っています。運営費は日本と違い、国と地方自治体が半分づつ負担しています。

11月25日付のダーグスアヴィーセン紙には、DVに向けた新しい動きが報道されていました。社会左派民主党(SV)が、暴力をふるった夫を、警察などが家から追い出せるように法改正を求めています。暴力をふるわれた女性や子供がシェルターに逃げ込み、加害者の方が家に残れるのはおかしい、というコメントが載っていました。「シェルターの時代は終わった。警察や行政は、シェルターがあることで、その存在に甘え、DVに真剣に取り組もうとしない」という厳しい指摘もしています。

ちなみに1999年、シェルターに泊まった女性の数2436人、子供1794人。電話相談などで利用した人は5099人。
ノルウェーの人口は、わずか400万人強です。そう考えると、多いと感じませんか?

またSVは、暴力被害に苦しむ女性は、警察と直結した警報アラームを自動的に入手できるようにし、夫が家に近付く禁止令を出すべきという提案もあわせて行っています。
この警報アラームは、被害者のデータが警察のオンライン上に記録されていて、被害者が助けを求めた時、被害者の状況があらかじめ把握できるシステムになっています。近々日本でも同システムが導入されるようですね。

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・ダーグスアヴィーセン紙に女性編集責任者が誕生

オスロを中心に発売されているダーグスアヴィーセン紙(元アルバイデルブラーデ紙)に女性編集責任者が誕生したと他紙のアフテンポステン紙にインタビュー報道されていました(12/20付)。

その編集責任者に選ばれたヒルデ・ハウグスイェルドさんは、48歳。日本では考えられない経歴の持ち主です。まず、1984年に全国紙のダーグブラーデ紙で働き、その後、キリスト教系新聞のヴォート・ランに転職。それから、180度政治姿勢が違う左派系のクラス・カンペン紙(階級闘争の意)に転職してから、国立病院の広報部に移り、最後にダーグスアヴィーセン紙に転職したそうです。これだけ転職できたのも、有能な証拠でしょうか。やはり、3つくらいの新聞を渡り歩いている有名な編集者がいたと記憶しています。

大きな新聞で女性がこれだけの地位に着くのは初めてだそうです。ヒルデさんはインタビューの中で、「読者は、女性編集責任者の存在に紙面からすぐに気がつくでしょう。もし、気づかなければ、文句を言ってください」と言っています。ちなみにダーススアヴィーセン紙は、女性問題などを取り上げた記事が一番多かったことから、「男女平等賞」を昨年、受賞しています。

あと私が興味深かったのは、他紙のアフテンポステン紙が大きくこのニュースを取り上げていることです。ノルウェーのメディアはお互いにニュースをよく引用し合っています。例えば、ラジオのニュースで「VG紙によると..」とか「アフテンポステン紙によると..」と引用したり、また新聞の方でも他紙やテレビのニュースをよく引用します。去年の夏、アフテンポステン社に見学で訪れた時、応対してくれた記者に、このことについて尋ねたら、「何が不思議なの?」という反応でした。こういう報道スタイルが許されると、記者の残業時間も減るのではないでしょうか?

区切り線

追記(1/19)

この原稿を書いて2週間後、上に書いたヒルデさんが、ノルウェーでお世話になった方の娘さんだったことが分かりました。
オスロ留学中にこれまたお世話になったノルウェーの友人(以前、翻訳した「男女平等の本」の作家アウド・ランボーさん)からのメールに、このヒルデさんが、アウドさんの友達、マルギッテさんの娘さんだと教えてくれたのです。マルギッテさんには、一昨年のクリスマス時期、ノルウェーの名物料理「ルーテフィスク」(Lutefisk)をご馳走になったり、いろいろお世話になりました。その頃は、確かヒルデさんはダーグブラーデ紙で働いていると聞いていましたが、アウドさんも、「ヒルデはとても優秀」と言っていました。
世間は狭いというか、偶然の連続に驚いています。

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・増える豊胸手術

以前、翻訳したノルウェーの「男女平等の本」(ようこそコーナー参照)や、今、翻訳中の同ジャンルの本、「どうして男の子はサッカーをしないの?」の中に、美容整形の料金表が載っています。目、鼻、脂肪吸引がそれぞれいくら、と具体的に表示されていますが、これはもちろん、ノルウェーの子供たちに美容整形を勧めているのではなく、メディアや広告のモデルに憧れたり、異性の目を意識して、美容整形をしようとする女の子や女性に、「ちょっと待って!」とストップをかけるのが目的です。

しかし、3月11日付のダーグスアビーセン紙によると、豊胸手術を受ける女の子が増えているそうです。記事でインタビューされていた女の子2人は、それぞれ18歳と20歳。2人とも、家族や友達、医療関係者から、止めるように言われたのにも関わらず、決断しました。
18歳の女の子は、「胸がないので、15歳の時から、手術を考えていた」と言います。そして、「お金を節約して、手術代(およそ25万円)を貯めた。運転免許を取るより、手術を選んだ」とも。20歳の女の子は、「借金をして、手術をした」と語ってます。
彼女たちを手術した医師は、美容整形科を設立した1975年以降、豊胸手術は、「増える一方」と証言しています。

確かに、国内で実施された調査によると、13歳から19歳までの女の子のうち、自分の胸に「とても満足」と答えているのは、わずか4%、「満足」は、39%。一方、「とても不満、かなり不満、あまり満足していない」を併せると、52%に上り、半数以上が、自分の胸に満足していない結果がわかりました(1992年の調査)。

1999年、今度は、20歳から26歳までの女性を対象に調査した結果、やはり、47%の女性が自分の胸に満足していない、ということがわかったそうです。

専門家は、「(不満とする)数字は、あまりにも高い。やはり背景として、男性の影響が考えられる」とコメントしています。

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・男女平等ミニファクト2001−最新の統計資料に見るノルウェーの男女平等

男女平等センターが、毎年、発行している手にひらサイズの統計資料の2001年度版が発行されました。この統計資料には、男女別の人口数、学校の選択科目割合、進学率、職業別の給与比などがコンパクトにまとめられ、日本でもノルウェーに関する資料作成の際、よく利用されています。
以下、統計数字を幾つか挙げてみましょう。

ノルウェーの高校では、専門職業教育が選択できますが、伝統的に女子学生が多い介護・看護・保育科目は、依然として女子の割合が、91.7%ときわめて高い数字です。一方、男子学生が多い学科における女子学生の割合は、建築(1.7%)、電気(3.8%)、機械(4.4%)と、やはり低い水準となっています。

また、婚姻関係以外で生まれた子供の割合は、49%と、ほぼ半数

女性議員の割合ですが、1999年の地方議会選挙で、34.3%になり、前回の選挙より、わずかに上回りました。

女性市長は、15%、女性知事は22%ですが、「たったの」という言葉が添えられています。

労働形態ですが、フルタイムで働く男性は、90%。一方、フルタイムで働く女性は、57%で、43%は、パートタイムとなっています。

これらの統計数字を見ると、確かにノルウェーの男女平等度は、日本より進んでいることは一目瞭然ですが、完全に「男女平等は達成された」わけではないのが、よくわかります。現に、ノルウェーの識者たちは、「ノルウェーでは、まだまだ男女平等は達成されていない」と強調して、揺り戻しを常に警戒しています。
しかし、日本の一部専門家やマスコミなどは、安易に「ノルウェー(または、北欧)は、男女平等が達成された国云々という表現を使っていますが、そうした表現は、せめて「男女平等が(日本よりも)進んでいる国」くらいの表現に変えた方が、より正確なのではないでしょうか?

なお、この資料名は「Mini fakta 2001」で、英語版もあります。以下の所で、入手を申し込めます(資料はタダです)。数字から、様々な事実を読み取って下さい。

Likestillingssenteret
P.O.Boks 8049 Dep
0031 Oslo, Norway (fax +47 22 24 95 21)
e-mail:bestilling@likestilling.no


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・DVに対応する委員会設置の動き

日本でも、DV(ドメスティックバイオレンス)法が誕生し、以前に比べて、近い関係にある男女間の暴力事件に、注目が集まるようになりました。
ノルウェーでは、DVという言葉はあまり使われず、「女性に対する暴力」(Vold mot kvinner)という表現がよく使われています。いささか旧聞に属しますが、5月10日付のダーグブラーデ紙に、法務大臣のハンネ・ハーレム(グロー・ハーレム・ブルンラン元首相の妹)のインタビュー記事が掲載され、その中で大臣は、「女性に対する暴力の委員会設置」を始め、様々な取り組み案を述べているので、紹介したいと思います。

「私は、女性を殴る男性たちに憤りを覚える」と大臣は言っていますが、その言葉の裏には、彼女自身、暴力の被害者たちを知っていることが関係しているでしょう。そして、男女平等センター所長のイングン・イッセンが、「政府は、女性に対する暴力について、あまり対策を取っていない」と批判したことを、「彼女のいら立ちは、とても理解できる」とも、大臣はコメントしています。
最近6年間で、夫などから殺された女性は40人。そして、約10万人の女性たちが、暴力被害に遭っていると言われていますが、そうした現状を受け、ハーレム大臣は、以下の対策を約束しています。
  • 「女性に対する暴力の委員会設置」...委員は警察、司法、社会事務所、DVの研究者たちから構成。数ヶ月以内に設置する。
  • 「女性に対する暴力のフォーラム」...暴力被害に悩む女性や加害者の男性をサポートする様々な団体の人たちが集まれる場を作る。
  • 個人番号を変更するための新しい法...ノルウェーは、生まれてから死ぬまで個人番号がついてまわり、性別を変えた場合のみ変更が認められていた。しかし、家を出た女性が、この個人番号をもとに、転居先を夫などから見つけられてしまうケースがあるので、暴力被害に悩む人にも個人番号を変えられるような新しい法律を作る。
他にも、警察のDV対応強化や、暴力被害者数の多い移民女性たちへの対応に焦点をあてること、なども言及しています。
DV対策に関しては、各国がまだ試行錯誤の段階かもしれませんが、この分野においても、ノルウェーの思い切った取り組みを期待したいですね。

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・ダグスアヴィーセン紙の女性編集局長を訪ねて

今年の夏(2001年)、ノルウェーに旅行した際、本欄でも取り上げたダグスアヴィーセン紙のヒルデ・ハウグスイェード(Hilde Haugsgjerd)編集局長に、お目にかかる機会がありました。以下にレポートします。

ダグスアヴィーセン紙のオフィスは、オスロのMøllergataにあります。ヒルデ編集局長
8月8日の午後2時にヒルデさんは、日本からの訪問者を編集局長室へ迎えてくれました。
デニムのジャケットにスカートというかなりカジュアルな装いのヒルデさんは、とても元気で気さくな調子で、いろいろな質問に答えてくれました。

まず、ヒルデさんの経歴をみると、保守的なキリスト系新聞から、ラディカルな「階級闘争」(Klassekampen)という名の新聞を渡り歩き、大手のダーグブラーデ紙の名物編集者・コラムニスト・デスクの地位を捨てて、ダグスアヴィーセン紙の編集局長就任とバラエティーに飛んだ経歴について尋ねると...

「これだけいろいろ新聞を変わるのは、15年くらい前までは普通ではありませんでした。しかし、新聞が政党色をなくし(注・ダグスアヴィーセンは、以前はアルバイデルブラーデという名の労働党系の新聞だった)、それにつれて、新聞間の転職は一般的になってきました。通信社から新聞社へ転職する人も多いです」。

大手のダーグブラーデから、購読者が少なく経済的に厳しいダグスアヴィーセンへの転職の決め手は?

「ダーグブラーデ紙はタブロイド新聞で、有名人ネタやセンセーショナルな記事の書き方など、自分に合わない部分があり、ダグスアヴィーセンの方が、自分に向いていると思った。また、編集局長というポストにも魅力を感じました。ダグスアヴィーセン紙は、有名人ばかりを取り上げるのではなく、女性たち、若者たち、普通の人たちを積極的に、紙面に取り上げる方針です」。

子供を持つ女性が、新聞記者の仕事をするのは難しくないのでしょうか?

「すでに21歳の時、私は子供を生みました。最初のキリスト系新聞では、育児と仕事の両方は難しくありませんでしたが、ダーグブラーデ紙に移ってからは大変でした。15年前の当時、同紙には女性記者はとても少なく、部門も文化担当など限られていました(ヒルデさんは、同紙で政治・社会担当)。日本の女性記者と同じように、ノルウェーでも、普通よりもタフな女性でなくては続かない仕事だと思います。しかし10年前くらいから、女性たちも新聞業界に進出してきました」。

ヒルデさんが紙面で女性問題を積極的に取り上げることに関して、編集局内で反発や抵抗はないのでしょうか?

「私が、編集局長に就任してから、新たに2人の女性を部長職に登用しました。2人とも、とても優秀な女性です。また男女平等に関する意見は、ノルウェーでも世代間によって、非常に差があります。男女平等に抵抗感がない若い世代の男性が、部長職に就いているので、私の編集方針を受け入れることに問題はありませんでした」。

ヒルデさんは最近、同紙に移民のバックグラウンドを持つ記者の求人広告を出しましたが、反応は?

「締め切りはまだかなり先なのに、とても反応は大きいです。日本と同じように外国人記者の数は、ノルウェーでもまだまだ少ないのは、言葉の問題が大きいです。ノルウェー人が読む新聞にノルウェー語の記事を書くことは、ノルウェー人でも難しいですから」。

保守党は、選挙公約の1つにダグスアヴィーセン紙を始め、中小の新聞が受けている政府からの補助金カットを掲げていますが...

「確かに保守党は、そう言っていますが、実現されるとは思ってません。保守党は伝統的に、文化を大事にする党ですし、反発が大きいでしょう」。

ヒルデさん個人の今後の目標は何かありますか?同紙を辞めた後、政治家になるとか?

「ダグスアヴィーセン紙での仕事は、5年間を考えています。その間、経済的な危機から立ち直って、健全な経営体制に立て直すことが目標です。辞めた後、政治家はいやですね。作家にでもなろうかと思っています」。

8月25日の皇太子の結婚式と晩餐会に招待されていますね。

「普段着しか持ってないので、あわててドレス2着を買いました(因みに、ヒルデさんのお母さんによると、ヒルデさんはお母さんに腕時計を借りに来たそうです)!」

Brita M. Engseth(映画記者)はっきりとした口調で、歯切れ良く答えてくれたヒルデさんは、次に編集局内を見せてくれました。去年訪れたアフテンポステン紙に比べて、かなり小規模かつこじんまりしています。
そして目立つのは、若い記者たちで、活発な雰囲気。女性記者が、多く働いているように見受けられました。中には、国営のNRKから転職してきた有名な映画記者の女性もいます。

後日、アフテンポステン紙に、ヒルデさんが編集局長になってから、ダグスアヴィーセン紙の売上が伸びていると書いてありました。これからも、良心的かつハイクオリティーな同紙が、つぶれないことを願ってます。

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・若者の政治離れ

われながら、「陳腐なタイトルだな〜」と思います。日本では、耳タコの言葉ですが、選挙の投票率では、常に高い数字をマークしてきたノルウェー(他の北欧諸国もそうです)では、非常に深刻に受け止められているテーマです。

「話題」欄でもお伝えしたように、今年の9月、ノルウェーでは、総選挙が行われました。全体の投票率は、約75%と日本では信じられない高水準。それでも、相当低い数字と受け止められました。
しかし一層、問題なのは、18歳から21歳の若者たちの投票率が、記録的な低さだったこと。ダグスアヴィセン紙によると、この年代の投票率は、55%(2001年11月9日付)。約半数が、投票を棄権したことになります。

統計をまとめた「統計中央局」(SSB)の専門家によると、「90年代は、若者の政治への関心が失われた10年だった」そうです。
1989年には、80%もあった若者の投票率が、1993年には、65%へと激減。1997年の選挙では、遂に60%を下回りました。
この間の選挙では、税金問題のほか、「学校と教育」がクローズアップされたので、若者の投票率が再び上がるのでは、と予想されたそうですが、更に落ち込む結果となった次第です。

こうした原因について、「2大政党の労働党と保守党が似ているので、有権者に混乱を与えた説」「投票とは、市民の義務という意識が薄れた説」「政治家が重視しているのは、18歳以下および25歳以上の子供を持った国民のグループで、ちょうどその間の年代に向けた取り組みがない説」などが載っています。

まだまだ日本からみれば、うらやましいほどの高い投票率だと思いますが、北欧の特色である「高い投票率」が甦るように、早めの手段を講じて欲しいものです。

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・ベルゲン大学女性・ジェンダー研究センター所長来日

3連休の初日、11月23日。すごく重厚なタイトルのシンポジウムに参加してまいりました。その名も...

「男女共同参画グローバル政策対話 佐賀会議」主催:内閣府&佐賀県

「こんなアカデミックな場に、私が行っていいの?」と、自らツッコミを入れつつ、生まれて初めて佐賀市へ向かいました。
このシンポジウムに、興味を持ったのは、ベルゲン大学女性・ジェンダー研究センター所長カーリ・ヴァルネス(Kari Wærness)教授が、参加するという情報を聞いたからです。本当にいろんなノルウェー人が、来日してくれますよね、感激。
カーリ・ヴァルナス教授
会場となった佐賀県立女性センター・佐賀県立生涯学習センター「アバンセ」は、思いのほか観客が集まってました。
海外からのパネリストとして、ノルウェー以外からは、カンボジアインドネシアから、女性政策担当官の方たちが参加しています。
開会の挨拶後、各パネリストがそれぞれの国の「女性の現状」や「国の施策」について基調講演をしました。
ヴァルネス教授の講演タイトルは、「男女共同参画と社会保障制度について」。筆者は、同時通訳を理解するのに不慣れだったので、内容をきちんと把握できませんでしたが、印象に残った箇所を列挙します。

ヴァルナス教授は、まず、戦後以降の、ノルウェーの女性政策や家族政策の歩みを、社会構造の変化と関連付けて解説。農業国から工業産業国へ、さらに石油産出国へと発展していくノルウェー。それに伴い、女性の教育レベルは向上し、専業主婦が多数を占める社会から、女性が外で働く社会へと変化していきます。そうした社会構造の変化に対応すべく、今まで主に、女性が担ってきた育児や介護などの仕事を、公共サービスが担うように整備されていった過程を説明。
様々な統計で、「男女平等先進国」とみなされる北欧諸国が持つ社会福祉制度を、「女性に優しい福祉国家」と、教授は表現しました。さらに、福祉国家が、どのくらい女性に優しいものなのかを示す指標として
  • 離婚、または配偶者が育児の責任を怠った場合に、女性が家族を養うことができるようにするサポート
  • 妊娠中および育児中において、働く権利を保護する政策
  • 子供、障害者および高齢者のための優れたソーシャル・ケア・サービスを促進する政策
を挙げました。

さらに、経済のグローバル化が進む現代、ケアの倫理を確立する必然性を訴え、その倫理を支える理念として、
  • ケアを人間生活の基本的一面として考えることは、第一に人間を完全に自立したものではなく、相互依存の状態にあるものと理解
  • 人間を相互依存の状態にあるものとして捉えることにより、人間の生活には、自立と依存の側面両方があることを理解する。様々な種類の福祉政策、社会保障制度によって、どのようなタイプの依存が、生まれるのだろうか?また異なる選択によって、それを行った人々に、どのような結果がもたらされるだろうか?
  • ケアが過小評価されていることへの反省。ケアの重要性およびその道徳的価値が、きちんと認識されていないため、ケアの大半を担っている女性たちの働きや貢献が過小評価されている。
と、列挙しました。
北欧諸国は、他国に比べて、ケアの政治的理念に関して、実現を果たしてきましたが、最近の傾向として、公共のケア部門における魅力が低下していると警告。
しかし、伝統的な女性の職場とみさされた職場に、人気がなくなったからといって、安易に低賃金の移民労働者に依存することなく、十分なケアを、さらに整備した社会を促進しうる福祉制度を充実する必要性を訴えました。

基調講演の後、3つの分科会に分かれ、ヴァルナス教授は、会場から幾つか質問を受けました。
質問は特に、「どうして、ケアサービス職場に魅力が減ってしまったのか?」に集中。その原因として、教授は、伝統的な女性の仕事がないがしろにされている、低賃金なケアの仕事より、もっとお給料のいい仕事に魅力が高まった、パートタイムの労働形態が多いケア部門は、フルタイム志向の若い女性にアピールしないことなどを挙げました。
さらに、こうした現象をあらためるため、「ケアの仕事の認識を高める、仕事を見直す」必要があると同教授。過小評価からの脱皮が大事なのです!

その他、目立ったやりとりとして...
「若者の政治離れ」に関して(上の項目見てください!)、ヴァルナス教授は、ノルウェーでも日本同様に問題であると言いました。仕事と家事で手一杯の現代人は、政治のことを考える時間が足りないのかもしれない、と指摘。それを聞き、「ノルウェーで足りなかったら、日本は...?」と思った次第です。

98年にノルウェーで導入された「在宅育児現金手当て」についてにも質問がありました。
これは、「女性を家に戻す試み」とフェミニストの方々から悪評なのですが、ヴァルナス教授は、最近、調査を行い、この政策が女性を家に戻すことにはならなかったこと、また子供に仕える資金が増えることを挙げ、好意的に評価。意外でしたが、いろいろな意見が聞けて興味深いです。

長時間労働で悪名高い日本人男性が、どうやって家事や育児をやっていけばいいのか、という質問を受けた教授。
講演で表現した「女性に優しい政策」と平行して、「家族に優しい政策」について、説明がありました。ドイツのフォルクスワーゲン社で実施している週3日出勤制度を紹介し、「果たして、日本のように長い残業時間は、効果的でしょうか?」と、もっともな問いを観客に、投げかけました。

女性の家事労働負担と関連して。
「これは冗談ですが」と、教授は前置きされてから、「日本に来てから、すばらしい料理を味わいました。ですけど、これを作るには、ものすごい時間と手間がかかっていますよね。ノルウェー料理はシンプルで、時間がかかりません。日本食をもっと単純化すれば、作業は軽減できますが、伝統とのかねありもあって難しいでしょうね」−これは、私も前から同じことを思ってました!
料理はシンプル、使う食器は少なく食器洗い器が普及、服は何でも洗濯機で洗えて、家が広いので、掃除しなくても汚れが目立たない国ほど、女性の負担は軽減され、男女平等は達成されやすい、と思いませんか?もちろん、「おいしいもの食べたい!」という欲望と、常に闘う必要がありますけど...(だからなまじ、おいしいものなど知らない方がいい?)

長時間に及んだ後、近くのホテルで懇親会がありました。
「こんなフォーマルな場に、私が行っていいの?」と、またまた自らツッコミをいれ、会場に侵入。ヴァルナス教授は、他の参加者同様、食べ物が並んだテーブルに突進したことを、見逃しませんでした!
満腹になったころを見計らって、教授に近づきます。カーリさんは、(といきなりファーストネーム)、やっぱり気さくな方で、写真撮影を許可して頂き、おしゃべりしました。教授のノルウェー語、難しい〜!と思い、尋ねてみると、北ノルウェーご出身。「とてもこげん人の通訳は、できんばい」(九州の方言です)と思いました。このHPで、カーリさんを取り上げたいと言ったら、喜んでくれました(日本語だけだから、内容チェックされなくて良かった...)。
「また、日本に来たい」というカーリさんの言葉を信じ、次にお目にかかる時までには、北の方言を勉強しなくては!

カーリ・ヴァルナスさんが勤めるベルゲン大学女性・ジェンダー研究センターのサイト↓
http://www.hf.uib.no/i/hkv/english.htm(英語の頁です)

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財務大臣とパートナーシップについて

2002年1月4日、ノルウェーの財務大臣が、長年にわたって恋人だった男性のとパートナーシップ関係を結んだことが、ノルウェーの国内のみならず、海外でも大きく報道されました(2人の写真はこちらから)
この「パートナーシップ」という言葉ですが、ノルウェー語では、「partnerskap」と呼ばれるもので、同性同士の婚姻関係を法的に認める「パートナーシップ法」によって認められた関係です。

パートナーシップ法は、正式には、「登録されたパートナーシップの法律」(Lov om registrert partnerskap)と言います。
1993年8月に施行されましたが、ノルウェーはデンマークに次いで、世界で2番目に、この種の法律を発効しました。管轄は、家族・子供省になります。
この法律は、異性間の婚姻関係と同等の権利を認めたものですが、子供を養子に迎えることはできません
その他の条件としては、2人のうち少なくとも1人は、ノルウェーの市民権を持っていること、またどちらかがノルウェー国内に住居を持っていること。但し、スウェーデン、デンマーク、アイスランドの市民権は、ノルウェーの市民権と同等の権利を有するそうです(フィンランドは?)。
さらに少なくとも1人は、登録前の最近2年間、ノルウェーで暮らしていることも条件です。

この「パートナーシップ」を日本語でどう訳しているか、気になるところですが、最近、筆者が読んだ「少子化をのりこえたデンマーク」(湯沢雍彦著、朝日選書)という本の中では、「同性間準婚姻制度」という訳が試みられていました。

今回のニュースについて、アフテンポステン紙は、好意的な海外マスコミの反応などを伝えていますが、ダグスアヴィーセン紙のジャーナリストであり、同性愛者であることを公にしているブリータ・M.エングセットさんが、興味深いコラムを同紙に寄せているので、ご紹介しましょう(彼女の写真は、「ダグスアヴィーセン紙の女性編集局長を訪ねて」の回に載せていますので、ご参照を!)。

2002年1月20日付のコラムより(記事の提供は、「男女平等の本」の著者であるアウド・ランボーさんです)。
まずエングセットさんは、率直に喜びを表明しています。「ペール・クリスティアン・フォッス財務大臣が、長年にわたって恋人関係にあったヤン・エリック・クナールバック氏(訳注:同氏は、ノルウェー最大のメディア会社社長)と、パートナーシップ法に基づく婚姻関係を結んだニュースは、非常に喜ばしい。すばらしい!保守的なキリスト教内閣の中にあっても、同性結婚ができるノルウェーに暮らしていることは、なんて幸せだろう!

しかし、エングセットさんは、海外の反応に比べて、国内の奇妙な静けさが引っかかります。
「私はこの素晴らしいニュースを読もうと、新聞記事を探し、ネットサーフィンを行った。別に、”幸せ一杯”の表情を浮かべた二人の写真を見つけることを期待したわけではない。彼らにとって、とてもプライベートなことだから。
だが、今回のことがどんな意味を持っているのか、またパートナーシップに否定的なキリスト教民主党(現首相の所属する党)が、どんなことを語っているかを見つけたかったのだが....何も見つけることはできなかった
一方、外国の好意的な反応はたくさん見つけることができた;アメリカ、スペイン、ドイツ、英国、ブラジルなどでは、パートナーシップに祝意を表したのである。AFP通信社は、”同性愛者の権利にとって大きな一歩”とまで表現した。
では、どうしてノルウェー国内は、静まりかえっているのだろうか?

その静けさの原因として、彼女は次のように続けます。
「同性愛もパートナーシップも、今ではすっかりノーマルで当たり前のことになったから、こんなニュースは刺激的でもスキャンダルでもないのかもしれない。
だが、事実は違う。ノルウェーの社会がホモやレズに対して、突然、寛容になったから騒がないのではない−昨年のクリスマスイブに発表されたMMIの調査によると、同性愛者は、有色人種よりも人気がないことがわかったのだから」と、まだまだ同性愛に対する社会の偏見が存在することを訴えます。

さらに厳しい指摘が続きます。
「この静けさは、誤解された寛容性とポリティカル・コレクト(PC)が、交じり合った結果、生じたものだと私は思う。今回のケースを敢えて完全に理解しようとする人は、誰もいないのだ。これはプライベートなこと?それとも公のこと?ペールは、家にいる間だけホモで、仕事中は違うの?
今までどんな同性愛者の問題に対しても、MMI調査に対しても、自らの意見を述べようとしなかったホモの財務大臣に、どうやって向き合えばいいのだろうか?」

今まで同性愛の諸問題と距離を置いてきた財務大臣に対して、彼女は要求を行います。
「私は、財務大臣が自らの私生活をさらけ出せ、と求めているのではない。ただ、大臣にもっと同性愛者の問題に関わって欲しいのだ。この国の同性愛者に対する決定事項は、彼自身と彼のパートナーにも影響を与えるのだから」

彼女のコラムを読んで、推理作家のアンネ・ホルトのことを思い出しました。
やはり同性愛者である彼女は、2年前、女性編集者とパートナーシップ関係を結びました。当時、タブロイド紙の一面に大々的に報道され、怒った彼女は、テレビ番組に出演。「自分のプライベートライフを守りたい」と主張します。
それに対して、同じく出演者だった同性愛専門誌の編集者(名前失念)は、「アンネ・ホルトのような社会的に影響力のある人物は、もっともっと同性愛者の権利獲得のために、表に出て運動をして欲しい」と反論。しかし、アンネ・ホルトは、「自分の主張は、自分の作品を通して行っている」と再反論。互いの主張は、ついに一致することはありませんでした。

今回のケースをノルウェー人留学生(男性)に尋ねたところ、「とてもいいことだと思うよ」と気軽に答えてくれました。
おそらく、熱心なキリスト教信者を除いて、普通のノルウェー人は彼と同じような反応ではないかと想像しますが、当事者である同性愛者の人たちは、「おめでとう!」一色の単純な反応だけではないかもしれません。

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