「ガラスの天井」(ノルウェー語でglasstaket)は、女性が社会進出するため、トップに上るには、「ガラスの天井」が邪魔をする、というニュアンスで使われる表現です。
皆さんもご存知の通り、ノルウェーは世界でもトップクラスの「女性が活躍している国」。
そんなノルウェーにもまだ「ガラスの天井」は存在するのでしょうか?
現在、熱い議論が交わされているのでご紹介しましょう(Aftenposten紙、2014年1月3日)。
まず「ガラスの天井」論争に口火を切ったのは、NHO(ノルウェー経営者団体)の代表、Kristin S. Lund(クリスティン・S・ルンド)です。
「女性が男性社会に邪魔されてトップに上がれない、男性に比べて何倍も働かないと認められないという”ガラスの天井”は、もはや伝説でしょう。」
「女性が活躍する国」ノルウェーにも弱点はありました。
それは政治家や公務員に比べて、民間企業で女性をリーダーとして登用するのに、遅れているという点です。
しかし最新の調査によると、125の大手企業の女性役員の割合は、2004年の22パーセントから、2013年では33パーセントへと増えています。
この数字に前述のLundは満足している訳ではありません。
「女性のトップが少ないのは、女性自身に関わる問題でしょう。求められることをこなす意志がない女性は多いし、それは私も理解できます。リーダーであることは決して安楽ではありませんが、とてもやりがいがありますね。」
Lundの意見には研究者も同調しています。
社会学者でジェンダー研究が専門のAnne Grethe Solberg(アンネ・グレーテ・ソールバルグ)は、1995年に「ガラスの天井」について本を執筆しました。
しかし2012年、博士論文で「もはやガラスの天井は存在しない」と彼女は書きました。
「私はLundの意見に100%賛成です。ここ10年の間、労働をめぐる環境は劇的に変化しました。才能あふれる若い女性たちが教育を受け、それを生かしたいと思い、男性のネットワークに邪魔されることはなくなりました。」
ここで男性の意見も紹介しましょう。
ビジネス界の重鎮で、投資家、前NHO代表のJens Ulltveit-Moe(イェンス・ウルトヴァイト・モー)は、「ガラスの天井の概念は20年前のもの」と考えています。
「今、ノルウェーの首相は女性、財務大臣も女性、NHO代表も女性、LO(全国労働者団体)代表も女性です。また多くの政党代表も女性ですね。」
経済界における女性の活躍について、同氏はこう結論づけます。
「経済効果として女性の活躍は、石油の発見と同じくらい意味があるでしょう。」
そろそろ反対の意見もご紹介します。
オスロ大学の有名な言語学のRuth V. Fjeld(ルットゥ・V・フェルド)は、ガラスの天井が完全に無くなったのか懐疑的です。
「ガラスの天井はガラスの天井であり、ノルウェーには依然として性差別が存在します。」
オスロ大学では、1998年、女性教授はわずか8%でした。現在では40%です。
一見すると数字は飛躍的に伸びたように感じますが、40%のうち主任教授など、より責任あるポジションにある女性は15%以下とのこと。
Fjeld教授は、さらに続けます。
「男性たちは密接なネットワークを持ち、お互いにポジションを融通しあいます。
私は、求められることをこなす意志がない女性に問題があるという結論は、単純すぎると感じますね。
というのも、多くの女性にはいまだにトップに上がれない障害があるのは事実です。」
この記事をきっかけに、「ガラスの天井」論争は、どんどん広がりを見せています。
よく日本に来たノルウェー人が「(日本は)30~40年前のノルウェーみたい」と、感嘆または唖然とする事実を思い出し、日本とは次元が違いすぎる議論の行方を興味深くフォローしたいと思います。
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