2008年ノルウェーへの旅  

翻訳者セミナーに参加して


ラッキー。今日もいい天気。
翻訳者なんて地味な人間が集まったのに同情して、天気だけは晴れにしてくれたのかも。
下の食堂で朝食。すでに大勢の参加者が、集まっている。豪華なビュッフェ料理に「どれを食べようかな?」と悩みながら、お皿にどんどん食材を置いていくのは貧乏性の性?
空いているテーブルを見つけ、周りの人と共通語である「ノルウェー語」で話しながら、朝食をぱくつく。デザートまでしっかり食べて、いざ、セミナー会場へ!

ホテルの地下にある大きなセミナールーム。
憧れのストーレ外相を少しでも良くみたいという思いで、私は最前列に座った。隣の女性はインド人とノルウェー人のハーフ。全然くせのないノルウェー語を操るので、羨望。

Gina 最初にまずGinaが「ようこそ!」とあいさつ。
Ginaと知り合いの翻訳者は多いらしく、みんなから暖かい拍手で迎えられた。
ストーレ外相 そして・・・・。憧れのストーレ外相がいよいよ演壇に!
外相は昨年、本を出版されていますが、挨拶の言葉は官僚が代理で書いたようなものではなく、自分の言葉で述べられたもの、と確信するほど素晴らしい内容。
よ、さすが!
こちら
から参照できます)

それから、共通の講演会が幾つか続いてから、分科会の講演会へ移動。私は児童文学、ミステリーについての講演会を聴く。
休憩中のホテル庭園
もちろんこうした講演会を聴けることは大変、意義深いことだが、合間に、休憩やランチをはさんでいるので、他の翻訳者と交流できることも、本セミナーの大きな目的。翻訳者の男女比でみると、女性の方が多い。天気がいいので、みんなでのんびりする。

休憩中、紅茶をいれていると、「あら、日本人ですか?」と声をかけてくる女性がいた。ノルウェー人のIka Kaminka(イーカ・カミンカ)さんである。彼女は村上春樹のノルウェー語訳なのでお名前は存じ上げていた。聞くと、ノルウェー翻訳者協会の会長だという。
「ぜひ翻訳して欲しい作家がいるんです」と話を振る。
「誰?」
「町田康です」
と無理を承知でお願いしてみると、なんと
「私も町田康、好き」と意外なお返事が・・・。あの何ともいえない文章をどうノルウェー語に翻訳できるのか?翻訳者にとっては、とてもやりがいのある作家と言えるかもしれない。

さて恐怖の(?)ワークショップの時間になった。
メンバー表を見ると、皆さん、ヨーロッパの方ばかり。アジア人は私のみである。
最初に一人ずつ自己紹介をする。すると、みんなたくさんの作家をすでに翻訳している実績があることが分かった。すご~い、と尊敬。実力十分!
と同時に、マイナーなノルウェー文学をそんなに出版してくれる出版社が、それぞれの国にあることが羨ましくなる。特に、私はこのセミナーに来る前、あるノルウェーの風刺小説を某出版社にプレゼンをしたが、物の見事に「却下!」となったばかりだったので、余計に羨ましく思う。

さて、ニーノシュクや方言満載のテキストに苦しんだのは、私以外の翻訳者も同じようだった。
ノルウェーの田舎の自然描写や、昔からある童謡など、いかに原文のテイストを残しつつ、母国語に翻訳するか、活発な議論となった。児童文学だから「註」を入れられないし、翻訳者のジレンマや葛藤を短い時間ながら共有することができて、楽しかった。

お勉強の後は、お楽しみ。いざ、ドリンクパーティ
ノルウェー人作家たちが会場入りして、陽がサンサンと輝く庭園で、シャンパングラスを片手に集っている。

今夜の夕食のテーブル着席表が張り出されていた。知らない人ばかりだけど、休憩の時などにお話した中国人翻訳者と一緒のテーブルになっていた。彼女はもうノルウェーに13年も住み、旦那様もノルウェー人。日本人の参加者も中国人の参加者も3人ずつだったが、中国人は全員が在ノルウェーの人だった(日本の参加者は1人のみ在ノルウェー)。

食べられる運命の牛さん このホテルにいる間、ブロイラーの鶏のように食べてばかりいる気がする。
前菜に続き、今日のメインは牛さん。うん、ソースもおいしい。
甘い!デザート デザートもしっかり食べて、カエル腹になる。

席の周りの人は、ボスニア、中国、ノルウェー、スペインなど。周りにもたくさんのテーブルがあり、喧騒がすごい。デザートを食べ終わって、紅茶を片手に庭園へ出てみた。

こちらも、中から移動してきた人、人、人。出版社のエージェントをはじめ、いろいろな人と会話を試みてみた。
私は普段、全然アルコールを飲まないが、せっかくなので、ワインやシャンパンをちびちび飲んでみた。いつまでも明るい空の下、これは幸せ!と下戸の私でも感じるほどだから、酒飲みのノルウェー人からすれば、最高だろう(おまけにタダ酒だし)。
お酒の力を借りて、憧れの作家に話しかけてみた。

一人目は、来年、日本での翻訳出版が決まっているPer Petterson(ペール・ペッテルソン)。彼は最近、北欧文学賞を受賞し、今や人気・評価ともにノルウェーを代表する現代作家。あまりにも自分の作品が誉められるのに、ややうんざりしている、とラジオで話していたこともあるらしい。でも、彼を前に作品を誉めない訳にはいかない。「あなたの“時の流れを呪って”は素晴らしかったです」と声をかけると、苦虫をつぶしたような顔になって、「その言葉にはうんざりしているんだ」と答えるPerさん。なんて正直!私も自分の本が誉められまくって、仕舞には嫌気が差す心境になりたいもの。
酩酊気味の大作家ダーグ・ソルスター
もう一人、お話してみたい作家がいた。日本ではほぼ無名のDag Solstad(ダーグ・ソルスター)。私は彼の作品の大ファンだが、同時に彼の気難しさや酒を極端に愛好していること、言語不明瞭なことなど、予備知識として知っていた。だから話しかけるには相当の勇気がいったのだが・・・。
まずは「あなたの作品が大好きです」と穏当に切り出し、そして「どうして日本に来ないのですか?あなたにぜひ来て欲しいです」と尋ねてみた。すると、すでに酩酊状態の彼は「だって、翻訳が出ないんだから行けないだろう」と、意外に感じよく答えてくれた。「それでも来て欲しいんです」と私もやや酩酊がうつって、単なる駄々っ子になっていた。
酒の力ってこわい。なんと、「写真を撮ってもいいですか?」と図々しくお願いしてしまった。旅の恥はなんたら・・・である。足元がふらついている大作家Solstadは気軽に写真撮影に応じてくれた。シラフだったら無理だったかも。お酒ばんざい!

すっかり満足した私は、まだ明るい夜に名残に惜しさを感じつつ部屋にもどった。



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